海外から流入した危険なトレンド(第2回)
拡散の原点:海外から流入した危険なトレンド
工業用化学物質であるホウ砂。これを「奇跡の万能薬」として持ち上げる異常なトレンドは、一体どこで生まれ、どのようにして国境を越えて広がっていったのでしょうか。海外の動画プラットフォームから発生したこのムーブメントは、人々の医療不信と結びつくことで急速に深刻化しています。
今回は、その発生源と拡散の裏にあるアルゴリズムの仕組み、そして拡散者たちの狙いを解剖します。
海を越えてやってきた「ボラックス・チャレンジ」
Section titled “海を越えてやってきた「ボラックス・チャレンジ」”このトレンドの直接的な発信源は、米国のTikTokやInstagramなどのSNSです。最初は「ボラックス・チャレンジ」といった名称で広まり始めました。一部のインフルエンサーが、水や飲み物にホウ砂の粉末を混ぜて飲む様子を投稿したことがきっかけです。
投稿者たちは、検証を経ていない創作のストーリーを動画内で繰り広げました。ホウ砂に含まれる元素「ホウ素」の性質を都合よく拡大解釈し、関節炎や慢性疲労に効果があると主張する「炎症を抑える万能の鉱物」説や、日常の体調不良がすべて解決するかのような幻想を提示する「体内の有害物質を排出する」説などです。
実際には、人間が必要とする微量元素としてのホウ素は、野菜やナッツなどの通常の食品から十分に摂取できます。洗浄剤や害虫駆除に使われる工業用ホウ砂を口にする必要などありません。
アルゴリズムと陰謀論が加速させた暴走
Section titled “アルゴリズムと陰謀論が加速させた暴走”なぜ、これほどまでに無謀な行為が多くの人々の目に触れ、信じ込まれてしまったのでしょうか。そこにはSNSの構造と、心理的隙間が組み合わさったメカニズムがあります。
SNSのアルゴリズムは、視聴者の目を引き、コメント欄が議論で荒れる動画を「関心が高い」と判定して優先的に表示します。「万能薬」といった極端な主張は急速に広まり、既存医療に不満を持つ層へと速やかに届いていきました。
専門家や公的機関が危険性を指摘して動画の削除を要請しても、拡散者たちはそれを逆手に取って「製薬会社や政府が都合の悪い真実を消そうとしている」と反論の材料に利用しました。
警告を出せば出すほど熱狂的な層は頑なになり、閉鎖的なコミュニティの中で「隠された秘薬」としての価値が高まっていく、という本末転倒な事態が引き起こされたのです。
流行の陰で微笑む者たちと輸入された嘘
Section titled “流行の陰で微笑む者たちと輸入された嘘”単なる「面白半分の注目集め」から始まった動画は、既存の医療システムに絶望や疑問を抱く人々を取り込む巨大マーケットへと変貌していきました。
発信者の中には、動画の再生数で広告収入を得る者だけでなく、自ら「本物の天然ホウ砂」や「関連サプリメント」を販売して直接的な利益を得る者まで現れ始めます。
海外から流入したこの危険なトレンドに目をつけたのが、日本国内で注目を浴びたがる反ワクチン派の医師です。彼らは自身のブランディングのためだけに海外の言説を輸入し、鼻高々に翻訳してみせましたが、長期にわたり服用してその安全性を精査したわけではありません。「関節炎が治る」といった宣伝文句とともに世に放ったのです。
さらにワクチンによる被害が深刻化する中、「ワクチン解毒ができる」などという言説が広まり、不安を抱く人々を惹きつけていきました。
さらに「海外居住者なら逮捕されない」と踏んだ海外在住を名乗る日本人インフルエンサーたちが、この危険な嘘を積極的に拡散。
「あのワクチンに早くから反対していた賢い医師が言っている」という偽りの信頼感と、医師免許という看板にまんまと騙され、人々はゴキブリ駆除用の粉末を神聖な薬と信じ込まされていったのです。
次回は、彼らが安全性を主張する際に多用する最大のトリック、「ホウ酸は危険だがホウ砂は安全」という言説の破綻について解説します。
